今やそうした状況は想像できない事態になっていますが、一時期日本国内のテスラモデル3の価格が大幅値下げされた時期がありました。その値下げの要因として最も寄与したといわれていたのが上海製テスラ車に搭載されたリチウムイオンバッテリーです。
テスラが中国上海に中国国内で初めて中国企業との合弁で無い単独企業としてテスラ車製造工場の建設を許可されたのが2018年10月、その後驚異のスピードで建設し、稼働を開始したのが2019年12月、そして日本国内に輸出を開始したのはそれから約1年後の2020年後半という状況です。
当時は米国カリフォルニア州フリーモント工場からパナソニック製のバッテリーを搭載したモデルSやモデルX、モデル3が日本に輸出、販売、納車されていましたが、このギガ上海工場稼働以降は(モデルS、モデルXのリフレッシュも重なり)ギガ上海工場からのみ日本に輸出されています。
そして今月9月から、この上海工場で製造されたモデルYがようやく日本国内で納車が始まった状況です。
今回は、そのうち値下げ直後の2021年3月に納車されたモデル3スタンダードレンジ・プラスのバッテリー劣化状況についてのレポートです。
搭載されているバッテリーは?
現状、モデル3は後輪駆動のRWD、航続距離が長いロングレンジ(LR)、最も速いパフォーマンス(P)の3車種、モデルYはRWDとパフォーマンスの2車種が日本国内に輸出されています。それぞれのバッテリー容量やメーカー、航続距離は下表のとおりですが、テスラは公式にはバッテリー容量やメーカーは公表していません。
モデルイヤー | 2021年 | 2022年 | ||||
車種 | モデル3 | モデルY | ||||
グレード | スタンダード・レンジ・プラス | RWD | ロングレンジ | パフォーマンス | RWD | パフォーマンス |
バッテリー容量 | 55.1kWh | 60.2kWh | 78.8kWh | 78.8kWh | 60.2kWh | 78.8kWh |
バッテリーメーカー | 中国CATL | 中国CATL | 韓国LG化学 | 韓国LG化学 | 中国CATL | 韓国LG化学 |
バッテリー種類 | LFP リン酸鉄 |
LFP リン酸鉄 |
NMC 三元系 |
NMC 三元系 |
LFP リン酸鉄 |
NMC 三元系 |
航続距離(EPA) | 423km | 438km | 566km | 479km | 430km | 450km |
テスラはソフトウェアアップデートをOTA(Over The Air)で随時行っているのは有名ですが、実は各モデルイヤーごとにハードウェアのアップグレード(一部ダウングレードも含む)を実施しています。上記の表のように、モデル3も2021年製スタンダーレンジ・プラスとその後継となるモデル3 RWDでは、バッテリー容量におよそ10%の差がある事がわかります。またこの他にも補機バッテリーは鉛蓄電池からリチウムイオンバッテリーになったり、インフォテイメントシステムの心臓部がインテルAtomからAMD Ryzenにアップグレードされたりしています
今回1年半後のバッテリー劣化状況をレポートするのは2021年型の中国CATL製LFPバッテリー搭載モデル3スタンダード・レンジ・プラス、バッテリー容量55.1kWhという事になります。
LFPバッテリーの特性
電気自動車のバッテリー劣化は宿命ともいえるものですが、累計走行距離や充電の仕方(急速充電か普通充電か)やその頻度が影響するといわれています。今回のモデル3スタンダードレンジ・プラスには、中国CATL製のLFP(リン酸鉄型)リチウムイオンバッテリーが搭載されています。このLFPバッテリーは、従来の三元系(NMC:ニッケル・マンガン・コバルト)バッテリーとはいくつかの点で違いがあります。
パナソニックやLG化学がテスラに提供している三元系リチウムイオンバッテリーはエネルギー密度、充放電効率が高く、耐熱性も高いのですが高コスト、中国CATL製リン酸鉄リチウムイオンバッテリーの利点は、低コスト、安定した構造、長い充放電サイクル寿命の一方で、エネルギー密度が低く、充放電効率が低く、低温での性能が低いとされています。
このLFPバッテリー搭載車のテスラ提供のマニュアルに以下のような文言が掲載されています。
LFPバッテリー搭載車両の場合、通常走行であっても充電制限を100%に維持し、少なくとも週1回はフル充電して100%にしておくことを、Teslaでは推奨しています。Model 3を1週間以上に渡って駐車したままにした場合、通常走行でドライブし、できるだけ早く100%まで充電することをTeslaでは推奨しています。
これに加え、可能な場合はセントリーモードを無効にして駐車することによりModel 3を定期的に「スリープ」させるようにしてください。セントリーモードが必要ない場所で自動的に起動しないように、「自宅を除く」、「勤務先を除く」、「お気に入りを除く」の各設定の仕様を考慮してください。
上記のガイダンスに従うと、航続距離を最大限に伸ばし、充電状態と推定航続距離を判断する車両の能力を向上させることにつながります。
つまり、LFPバッテリーはそれまでの三元系バッテリーと違って、常に満充電を保つような運用が理想のようで、特に自宅に充電設備がある場合においては基本的に「充電アダプタをつないだままにしておく」ことが推奨されています。今回の検証対象であるモデル3も納車時に同じ注意がありましたので、概ね上記の運用をしてきました。
1年半後のバッテリー劣化度は?
今からちょうど半年前に、バッテリーの劣化を検証するためにOBDを導入していますのでそのデータも参考にしながら現在のバッテリー劣化状況をまとめると以下のようになります。
時期 | 満充電時の航続距離 | 満充電時のOBD表示 | 累計走行距離 |
2021年3月 | 425km | (?) | 20km |
2022年3月 | 418km | 53.4kWh | 4,700km |
2022年9月 | 411km | 52.2kWh | 7,100km |
納車時点での満充電航続距離は425km、その1年後は418km、そして今回1年半後の満充電時の航続可能距離は411kmという表示になっています。航続可能距離の計算アルゴリズムがどういったものかにもよりますが、実用上はバッテリー残量よりも有効なので、この距離で計算すると納車時の96.7%、つまり▲3.3%の劣化が起こったということになります。最初の1年目がおよそ1.6%の劣化なのを考えると、劣化のスピードが倍増しているようにも見える結果です。
総電気代は?
OBDの情報が正しいとすると、上の画像の青枠で示したDC Charge totalは急速充電による総充電電力量、ACは普通充電による総充電電力量、Regen totalは回生ブレーキによる発電電力量、Drive totalは運転に要した総電力量を表します。
つまり、充電は全体の63%が普通充電(自宅)で、残りが(ほぼ)スーパーチャージャーによる急速充電ということになります。また、回生ブレーキによる発電も入れると、放電分も含めて使った総電力量は613+1055+561=2,229kWhとなり、そのうち運転に1,192kWh使ったということなので1,037kWhが運転以外で使った(失われた)電力(自然放電や停止中のエアコンなど?)となります。
電気代は概ね1kWhあたり25円くらいなので、総コストは41,700円/7,100km、つまり5.87円/km、10kmを走るのに60円弱、ということになります。ガソリン車との比較でいうともちろん燃費にもよりますが、トータルの燃費が10km/Lとすれば概ね3分の1程度のランニングコストと言えそうです。
もちろん、この充電電力を再生可能エネルギー(太陽光発電)で賄う場合にはその分もっと有利になるので、テスラに限らず電気自動車を購入される予定の場合には、一緒に太陽光発電を備えるのが非常に理にかなった組み合わせと言えます。
新型バッテリー?
テスラがLFPバッテリーを採用するのは、この中国ギガ上海製モデル3に加えて、モデルYのエントリーグレードであるRWDです。現在販売されているこの2車種のLFPバッテリーは中国CATL社が提供する全く同じもの、ということですので、航続距離の違いは車重や、車の形状の違いからくる空気抵抗、ホイールによる影響などによるということになります。
上記のように電気自動車の価値そのものを決めかねないバッテリーですが、最近中国のバッテリー大手2社(BYDとCATL)が相次いで新型のバッテリーに関する発表をして、それぞれテスラ車への導入が噂されています。
一つは電気自動車メーカーでもありバッテリーメーカーでもある中国BYDが欧州のギガベルリンのモデルYに新型ブレードバッテリーを搭載する、という噂です。
もう一つは世界最大のバッテリーメーカーとなった中国CATL社が新しいLFPバッテリーの弱点を克服する新型M3Pバッテリーをテスラに来年搭載する、という噂です。
いずれにせよ、電気自動車の心臓部はバッテリーなので今後もその動向には注目が必要です。
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