業界の常識を覆すテスラのダイナミック・プライシング、値上げ・値下げを続ける理由

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Credit:Tesla
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世界で販売が急速に伸びている電気自動車、モデル3およびモデルYのメーカーである米テスラ社は、自動車会社の中でも非常にユニークな変動価格戦略をとっています。直近のウクライナ侵攻や原材料費の高騰、金利の上昇に伴う需要の減少によって、このダイナミックな戦略は試されているといえる状況です。

テスラ社は今年に入ってから、全ラインナップで価格を劇的に下げ、時折戻すという、一見すると一貫性の無い価格変更を随時行っています。確かに、イーロン・マスク氏は、目先の利益よりも成長を優先させると述べていますが、この姿勢は一部の投資家を警戒させ、値引き前に購入した顧客を少なからず憤慨させています。

テスラの変動価格戦略

テスラの最も安い車は、何年もの間、米国の消費者が新車に支払う平均的な金額とほぼ同じでした。モデル3のスタート価格と業界の平均取引価格との差は、当初はわずか300ドルほどでした。2017年にこの電動セダンの生産を開始したとき、マスク氏は35,000ドルという価格設定をアピールしましたが、これは当時の普通の乗用車の新車に支払われていた平均34,944ドルとほぼ同じ水準でした。それから5年が経ち、インフレがはじまった今、モデル3は1月上旬の時点で、米国の乗用車の新車平均価格47,681ドルに対して46,990ドルからスタートしています。

この変動価格戦略は、自動車会社の中でも非常にユニークなもので、CEOであるイーロン・マスク氏が以下の2つの100年来の自動車業界における伝統を否定したことによって可能になりました。1つ目は、フランチャイズ・ディーラー・モデルを排除し、顧客が支払う最終的な価格を自動車メーカー(テスラ社)がコントロールするようにしたこと、2つ目は、モデルイヤーの開始時に価格を設定し、その後はほとんど据え置くという業界の常識を覆したことです。

しかし、今年初め、モデル3は、平均的な車両価格から劇的に変化し始めました。さらに驚くことに、電動SUVモデルYは、一般的な取引価格を2万ドル近く上回る価格から、業界平均を下回る価格へと価格を値下げしました。

マスク氏には攻める余地がある

矛盾しているように見えるかもしれませんが、テスラは強気の姿勢で値下げに臨んでいます。中国のBYDを除いて、テスラほど多くの電気自動車を生産している自動車メーカーは他にありません。テスラは少数のモデルで大量に生産しているため、他社と比べて比類ないスケールメリットを享受できる環境があります。また、テスラは、車両構造の一体化からバッテリーの簡素化まで、さまざまな製造技術革新により、自動車製造の原価コスト削減を実現してきました。

新興のリビアン・オートモーティブ社やルーシッド・グループ社などのライバル企業は、収支の均衡を保つにはほど遠い財務状況で、フォード・モーター社やその他の既存企業がEV事業を立ち上げる際にも同じことが言え、EV製造は儲からないビジネスという位置づけとなっています。そうした状況でも、テスラは、儲かるEV製造に成功し過去3年間に約100億ドルの負債を返済し、潤沢なキャッシュを蓄えているのです。

テスラは需要の問題に対処

もちろん、生産能力が高いということは、両方の意味があります。経済が活況を呈し、需要が旺盛なときには稼働率があがり上手く行きますが、経済状況が不安定な時期には稼働率が下がりコストがかさみます。昨年後半、テスラは四半期ごとに納車台数よりも数万台多くの台数を生産していました。同社がオンラインで公開している車両リストを集約したブログでは、直近は在庫が増え続けていることが示されています。

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ギガ上海工場から輸出されるテスラ車

テスラ2023年が第1四半期に報告した15日間という在庫車供給サイクルは、業界の基準からすると比較的健全なものです。しかし、この数値の推移を見ると、最近の値下げをすべて行った後でも、パンデミック開始以来の最高値を記録しており、強い需要があるという状況ではなさそうです。

「テスラは明らかに、供給制約型(生産能力に応じて納車台数が増え、価格が上昇する)から需要制約型(需要を刺激するために価格が下がり、生産量が配送量を上回る)へと移行しつつある」と、バーンスタイン証券のアナリストでテスラ株の弱気派として知られるトニ・サッコナーギ氏は、5月1日のレポートで書いています。

確かにマスク氏自身、景気後退のリスクについてこれまでも警鐘を鳴らしてきました。昨年末のツイッター・スペースの会話で、彼は金利の上昇と自動車のような高額商品の需要の低下を「ダブル・ワーミー」と呼び、同社は選択に迫られていると述べていました。

「単価を上げたいが、そのためには価格を下げなければならないのか。それとも、もっと遅い速度で、あるいは安定的に成長したいのか?”」と、マスク氏は問いかけ、「私は、会社を危険にさらすことなく、できる限り早く成長させたいと考えています。」と付け加えました。

ダイナミックな価格設定が新常識に

今年初め、テスラの値下げに不満を持ったテスラオーナーが中国のショールームに押し寄せた事件があったのですが、今回の大幅値下げに対して消費者の側からは、テスラに対する持続的な怒りの兆候は出てきてはいません。

そして他の自動車メーカーもこうしたイーロン・マスク氏のアプローチに注目しています。電気自動車の需要が急増し、既存の自動車メーカーがテスラを追いかける中、フォードやボルボ・カーズなどの自動車メーカーは、EVの販売台数と価格設定をより集中的に管理する方向に進み始めています。例えば、フォードは昨年、新型電気ピックアップ「F-150ライトニングの希望小売価格を3回変更しました。

フォードのCEOであるジム・ファーレイ氏は先月、記者団に対し、「素早く価格を変更できなければならないのです。競争市場であり、ブランドによっては収益性よりも成長性を重視するところも必要なのです。」

この記事はこの投稿を引用・翻訳・編集して作成しています。

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