今回は、2021年3月に納車されてから丸3年経過したギガ上海製テスラモデル3SR+(スタンダード・レンジ・プラス)のバッテリー劣化状況について、レポートしてみたいと思います。
その前に、まず電気自動車のバッテリーについて少し解説します。
NMCとLFP

Credit:Pansonic
現在BEV(バッテリー・エレクトリック・ヴィークル)に搭載されている駆動用バッテリーは、大きく分けて三元系と呼ばれるNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)バッテリーとLFP(リン酸鉄リチウム)の2種類に大別されます。
三元系NMC
前者のNMCのはその名の通り資源が偏在している希土類であるコバルトが含まれていることから、性能が高い一方でコストも高いバッテリーです。テスラの場合、モデル3でもモデルYでもロングレンジやパフォーマンスといった航続距離の長いグレードに採用され、パナソニックとLG化学から供給を受けています。またこのNMCバッテリーは、通常は80%充電を保ち、長距離を移動する場合にのみ100%充電するようなバッテリーの使い方が推奨され、そうすることでバッテリーの劣化を抑えることができるとされているバッテリーです。
リン酸鉄系LFP
一方で、LFPと呼ばれるリン酸鉄系のリチウムイオンバッテリーは、モデル3とモデルYのエントリーグレードとなるRWDに採用され、NMCに比べて単位重量あたりの電力量が小さい、つまり同じ重さのバッテリーではNMCに比較して短い距離しか走れないことを意味します。更に、このLFPの場合、三元系と違ってテスラは少なくとも週に1回は100%に充電することが推奨されています。
そして今回ご紹介するモデル3SR+に搭載されているのはこのLFPバッテリーで、自宅充電ですので概ね1週間に1回は100%を保つような運用を3年間続けています。
ハイランド版との比較
納車から3年経って、中国CATL製リン酸鉄型(LFP)リチウムイオンバッテリーの劣化度合いは、どの程度の状態になっているかを推測してみたいと思います。
テスラは(モデル3に限らず全モデルで)バッテリー容量を公式には公表していませんが、テスラモデル3スタンダードレンジ・プラスのバッテリー容量は55.1kWhと言われています。その後、2022年にハードウェアアップデートがあり、このバッテリー容量は60.2kWhに増量されました。ちなみに、去年9月から発売された最新のハイランド版モデル3RWDのバッテリー容量は、エントリーモデルであるRWDグレードでも同じくLFP(リン酸鉄リチウムイオン)バッテリー60.2kWhだとされています。
日本の電費よりもより現実に近いとされる米国環境保護庁EPAの認定している航続距離で比較すると、2021年版モデル3SR+では当時423km、現行ハイランド版モデル3RWDで438kmとおよそ4%ほど航続距離が伸びています。これは、バッテリー容量の増加とリフレッシュされたハイランド版モデル3のエネルギー消費効率や空気抵抗値Cd値が向上したことによるとされています。バッテリーとしては中国CATL製の同じLFPバッテリーが搭載されているものと考えられています。
3年経過時点でのバッテリー劣化
このモデル3SR+が納車されてたのが2021年3月20日なので、ちょうど丸3年間が経過した状況です。k今回、スーパーチャージャーで満充電した際の航続距離表示とOBDに表示されているバッテリー容量を計測して表にまとめてみました。
時期 | 満充電時の航続距離 | 満充電時のOBD表示 | 累計走行距離 |
2021年3月 | 425km | (?) | 20km |
2022年3月 | 418km | 53.4kWh | 4,700km |
2022年9月 | 411km | 52.2kWh | 7,100km |
2023年3月 | 405km | 51.6kWh | 9,200km |
2024年3月 | 396km | 50.6kWh | 13,300km |

航続距離で見ると3年前の納車当初が425km、ちょうど3年間経過したときで396kmなので93.2%までバッテリー容量が減少し、6.8%の劣化ということになります。この時点でのOBDデータが以下です。
バッテリー劣化への懸念
電気自動車を購入する際に懸念することを3つ挙げるとすると、それはまず充電環境、その次に航続可能距離の制限、そしてバッテリーの劣化ではないでしょうか。現在の電気自動車のバッテリーはほぼすべてスマートフォンと同じリチウムイオンバッテリーになっていることからも、スマホと同じようなバッテリー劣化が起こる「ような気がする」と考えられても無理はありません。
しかしよく考えてみると、スマホは概ね1日1回充放電を繰り返します。一方で、もし電気自動車をこの頻度(つまり1日1回充放電)させようとすると、満充電で400km走るとしても、年間で146,000kmも走ることになってしまいます。リチウムイオンバッテリーの劣化に大きく影響があるのが充放電の繰り返し(化学的組成の変化の回数)と言われていますが、電気自動車の場合、充放電回数がそれほど多くなく、スマホと比較したときのバッテリー容量が桁違いに大きく、相当な電力消費がないとそう簡単には放電できないのが実際のところなのです。
上記のモデル3は1年間で航続可能距離10kmに相当するバッテリー容量が劣化していることになります。仮にこの傾向が今後も続くと仮定すると、10年後に100km分の劣化、つまり最大で325kmの航続距離となり、これは当初の425kmから76.4%まで減るということを意味します。ただこの水準は、平均時速100kmで3時間も走ることができると考えると十分なように感じてしまうのが本当のところです。
テスラの場合ソフトウェアもハードウェアも「進化するクルマ」で、この都度アップデートされていくのが魅力の一つにもなっています。おそらくバッテリーの劣化よりも、このソフトウェアのアップデートについていけないハードウェアの陳腐化が進む方が早いような気がします。
既にテスラの心臓部と言われるMCUは現在バージョン4、HW4を搭載しています。新型のモデル3や中国で納車され始めているモデルY、リフレッシュされたモデルS/X、サイバートラックには既にHW4が搭載されています。実際に、2023年のホリデーアップデートの目玉であるハイ・フィデリティ・パーキングはこのHW4搭載車にのみ配信されています。
そういう意味ではやはりテスラ車はタイヤの付いたiPhoneなのかもしれません。
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