キャシー・ウッド氏が率いるテスラ株への巨額投資で有名なアーク・インベストが公表した、自動車販売に関するデータから、面白い傾向を分析していますので、今回はその紹介と、テスラの今後の背剤的な成長の可能性について触れてみたいと思います。
成長率の鈍化
2023年後半から、電気自動車(EV)の販売台数の伸びが2022年と2023年に減速し、2021年の前年比+113%からそれぞれ+59%と+28%になったというデータがEV需要が急速に減退しているというニュースに繋がっています。
アーク・インベストの調査によると、この成長減速データの背景を説明し、既存の自動車メーカーがEVへの投資を削減することは、EVへの移行に完全に乗り遅れる危険性があると指摘しています。
ここで、上のグラフのようにBEVの前年比成長率がどんどん低下していることが、EVの成長そのものが鈍化しているようなニュースに繋がっています。ただ、アーク・インベストが指摘しているのは、市場シェアの観点です。
「EV市場の健全性を測る上で、成長率よりも重要なのは、市場シェアがメディアの見出しを裏切るシグナルを送っていることです。重要なのは、以下に示すように、ガソリン車の販売台数は2017年にピークを迎え、まずハイブリッド車とプラグイン車、次に完全な電気自動車に取って代わられました。2021年から2023年にかけて、電気自動車の販売台数は480万台から約1,000万台へと倍増し、世界の自動車市場におけるシェアは約6%から12%へと拡大します。」
2024年以降のデータはあくまで推測ですが、ハイブリッドとBEVではBEVのほうが成長していくことが示されています。ICE車がどんどん減少し、その減少分をハイブリッドBEVが埋めていく傾向で、特にBEVの市場シェアがどんどん高まって行く予測となっています。
破壊的イノベーションのS字カーブ
更にアーク・インベストの指摘では、破壊的イノベーションが起こる場合には、その製品やサービスの採用率と成長率は反比例の関係になり、採用が進むに連れて成長率はどんどん低下していくことを示しています。
「メディアに登場する識者や多くの投資家は、破壊的イノベーションのプロセスにおけるS字カーブのニュアンスを理解していません。おそらく直感に反することかもしれませんが、成長率は通常、以下のように、市場が新しいテクノロジーにスケールアップするにつれて低下します。」
つまり、BEVの成長率が鈍化しているのは、EBAYの需要が減退していることを表しているわけではないということです。特に、上のグラフを見ていただくと、現在の自動車市場におけるBEVの市場シェアは13%という段階なので、今後どんどんその市場シェアは拡大してくまさにその入口にいるということです。
シェアが拡大すれば成長率は低下
当たり前のことですが、市場シェアの観点ではシェアが拡大すればするほど、対前年の成長率が鈍化します。BEVの普及もこの市場シェアが急拡大する直前に位置しているので、今後も対前年の成長率で見ると、徐々に成長率は低下していきます。
テスラの潜在的な可能性
既存のBEVだけであれば、上記のように徐々に成長が鈍化していくのですが、テスラの場合その潜在的な可能性は電気自動車メーカーを超えたところにあります。下のグラフのように、電気自動車メーカーとしてのテスラの場所は、まだその端緒に立ったところです。
イーロン・マスクCEOはかつて2030年に年間2千万台のBEV販売を目指していることを公表しています。現状で200万台程度なので、ここから10倍ということになります。ただ、今のような普通のBEVをを提供していてもこの実現はおぼつかないでしょう。
BYDを始めとする中国の新興EVメーカーとの熾烈な価格競争に巻き込まれていくことになり、2030年2000万台は逆に遠のきます。
一方で、テスラは単なる電気自動車メーカーではなく、次に繰り出すのは完全自動運転ソフトウェアとロボタクシーです。更にかつてイーロン・マスクCEOがバッテリーの導入量ではいつか電気自動車を上回ると予言している定置用バッテリー「メガパック」を中心とする再生可能エネルギーのエネルギー会社としての成長です。そして、その先にはFSDのソフトウェア技術を応用したヒト型ロボット「オプティマス」の登場ということになります。
電気自動車は、自動車市場のシェアを奪っていき、FSDのロボタクシーが実現するとその自動車市場よりもっと大きな市場導入されていくようになります。更に、そのロボタクシーの市場よりももっと大きなエネルギー事業の市場のS字カーブが始まり、最終的には人間の労働そのものを代替する人工知能を備えたヒト型ロボットの市場が待っているということなのです。
こうして見ると、テスラの物語はまだまだ始まったばかりだということがよく理解できると思います。
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