需要は復活するのか?最近の動きからテスラの販売戦略変更を読み解く

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テスラは自社オンラインでのみ販売する非常に珍しい直販専門自動車メーカーです。この特徴を活かして、状況に応じた価格の上げ下げを予告なしに実施するダイナミックプライシングにより、需要と粗利率の両にらみでこれまで販売戦略を立ててきていると思われます。今回は、EV市場の競争激化やEV車両のリセールバリュー低下の動きもある中で、テスラの販売戦略がどのように変わりつつあるのかを見てみます。

価格推移

このページでは2021年1月からテスラモデル3とモデルYの日本国内での価格推移を掲載しています。見ていただくとお分かりのように、少なくとも日本国内のモデル3/Yの価格は、この3年間で最長で「変化なし」となっています。もともとこのデータをWEBページに掲載し始めたきっかけは、自動車メーカーの伝統を壊してテスラの価格があまりにも短期間でかつ予告なしに変化するからというのが最も大きな理由です。

実際にテスラは、2021年2月に当時のモデル3を突然大幅値下げしたのを契機に、その後は小刻みな値上げと値下げをダイナミックに実施してきました。

テスラがなぜ価格を変更するのかは理由の説明がないので実際にはわかりませんが、価格推移と売れ行き、世の中の状況などを総合的に見ていると、これまでは単に需給という側面より、どちらかというと原価反映の側面が強かったように感じます。

典型的な例は、2021年2月にいきなりモデル3ロングレンジが約150万円、RWD(当時のスタンダード・レンジ・プラス)は約80万円の値下げが実施されましたが、これはそれまで米国カリフォルニア州フリーモントで製造したモデル3を日本に輸出していたものを、中国ギガ上海が竣工したので、アジア太平洋地域のモデル3はギガ上海製造となり、その製造と輸送コストの低下を反映した値下げであった、というようなことです。

また、2022年の小刻みな値上げは、当時はコロナ禍によるサプライチェーンの混乱に加えて、半導体不足や電気自動車のバッテリーに欠かせないリチウム価格の高騰が背景としてありました。

値上げ予告

最近北米と欧州、中国では「値上げ予告」の戦略がとられています。これは、ある一定期間に条件を付けてその間は「お得」、その期間を過ぎると値段を上げるという手法です。例えば、米国では3月1日からモデルYが1000ドル値上げになりましたが、この値上げは予告されており、2月末までの注文で3月中に納車の場合には安価な価格が提供されるような一種のキャンペーンです。この手の戦略は需要の先食いの側面もあると思いますが、それまでのテスラでは見られなかった販促手段になります。

結果としては4月2日にあった納車台数の惨憺たる結果を見ると、あまり効果が無かったとしか言いようがないですが、一方で「値上げ」がもたらす効果は粗利率やリセールバリューに良い影響をもたらすと考えられます。

リセールバリューへの影響

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Credit:Tesla

今年の年明け早々、レンタカー大手のハーツが、これまでのEVシフトからガソリン自動車へ軸足を戻す決断をしたことがニュースとなりました。

この判断に最も影響を及ぼしたと考えられるのがリセールバリューの影響だとの事です。ハーツが持っていたEVのおよそ8割がテスラということで、上記のようにテスラがダイナミックに価格を変更するので、リセールバリューには非常に悪い影響を与えます。値上げ、値下げの幅が少なければそれほど影響も無いのでしょうが、テスラの場合には非常に大胆に思い切った価格変更を突然実施します。レンタカー事業の資産の大部分を占める自動車の残存価値があてにならない状況は、事業者としても看過できないということのようです。

もちろん個人にとっても自動車はそれなりの価格のものですので、リセールバリューが安定していることは、新規購入の心理的ハードルを下げることにつながります。そういう面からも、テスラの大胆な価格戦略が岐路に立っているとも言えます。

実際に、2022年秋にモデルYが納車され始めたころにテスラ心斎橋から電話があり、2021年3月に購入したモデル3を購入価格より高く買い取る旨の連絡を受けた一方で、最近の下取り価格は、その半値以下という無茶苦茶な状況なのです。

広告戦略

昨年の今頃まで、テスラは広告宣伝費を一切使わないということで有名でした。これは、フォロワー2億人以上を抱えるCEOの存在や、紹介プログラムを通じた口コミマーケティングなどの効果により、そもそも広告宣伝が必要なかった新興EVメーカーだったからです。一方で、すでに年間200万台ものEVを販売し、自動車メーカーとしては(今のところ)時価総額世界一の巨大企業になったので、そのマーケティング手法が問われている状況といえます。

更に最近EV需要低迷の一つの要因としてアーリーアダプター(新しもの好き)には一通りいきわたったという説があります。逆に言うと、マジョリティを動かすためには一般的な広告宣伝(と安価なEV)が必要となっている状況といえるのです。

2023年の株主総会イベント「サイバー・ラウンドアップ」で、それまで広告宣伝に後ろ向きだったイーロン・マスクCEOが株主の声にこたえる形で試験的に広告宣伝を実施することに言及しました。

それ以降、英国での極めて限定的なグーグルのリスティング広告から始まって、Youtubeや最近では「敵」とも目されているマーク・ザッカーバーグのMETA(インスタグラム)に広告を掲載するまでに至っています。まだまだその露出は少ないですが、イーロン・マスクCEOの言動がどちらかというとテスラの顧客離れを招いているということもあり、今後もより積極的な広告戦略がとられることでしょう。

こうして見てくると、ダイナミックプライシングの停止や予告値上げ、リセールバリューへの配慮、そして広告戦略の変化はテスラが大きくなり過ぎて、既存の自動車メーカーになりつつある状況とも言えます。かつて、スティーブ・ジョブズが生きていた頃のアップルは、その先進性が緊張感のあるもので、時に物議も醸しました。その後、ティム・クックになって経営は安定する一方で、面白みはなくなっています。

そういうことから考えても、FSDの目途が立ちような段階で、イーロン・マスクCEOは、ヒト型ロボット「オプティマス」やxAIのGrokの方に軸足を移して、優秀な経営者に任せる方が良いのかもしれません。

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