国内納車車はすべて上海製!韓国のFSD「技術特例申請」が映す中国製テスラ認証の壁

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テスラがグローバルで展開を急ぐ完全自動運転(FSD:Full Self-Driving)機能。欧米での先行導入や規制当局との交渉が進む一方で、日本を含むアジア諸国では長らく型式認証や公道解禁に向けた法規制の壁が存在してきました。

その背景には、道路交通法や車両保安基準といった法制度の違いだけでなく、車両の「生産拠点」に起因する見落とされがちな認証上の制約が存在しています。

こうした中、韓国市場において、これまで米国製テスラ車のみに限定されていたFSDの適用範囲を中国・ギガ上海製モデルへ広げるため、テスラ現地法人が政府当局へ「技術特例」を申請する動きに出ました。

現在、日本国内で正規販売・納車されているモデル3およびモデルY(モデルY Lを含む)は、すべて中国のギガ上海工場で生産された車両です。隣国で表面化した「生産国によるFSD認証の格差」とそれを打開するための特例申請・法改正の議論は、日本の既存オーナーや納車待ちユーザーにとってどのような実質的意味を持つのか。制度構造と技術基準の双方から論点を整理します。

米国製とギガ上海製で分かれていた安全認証の二重構造

多くのテスラオーナーにとって、「同じHW4(ハードウェア4)を搭載したモデル3やモデルYであれば、生産工場の違いによるソフトウェア機能の差はない」と認識されています。実際、車両を動かす基本ファームウェアや車載カメラ、演算コンピュータの基本仕様は世界共通です。

しかし、国家間の貿易協定や自動車の安全認証制度においては、生産国ごとに全く異なる認可プロセスが適用されてきました。

例えば韓国市場では、米韓自由貿易協定(FTA)に基づき、米国連邦自動車安全基準(FMVSS)に適合した「米国製テスラ車」については国内基準を満たしているとみなす安全基準認定特例が存在します。そのため、米国工場で生産されたモデルSやモデルX、さらには旧型コンピュータ(HW3)を搭載した米国製の初期型モデル3・モデルYでは、すでにFSD(最新のV14やHW3向けV14 Liteを含む)を使用することが可能です。

一方、ギガ上海で生産された車両はこの米韓FTAの適用外となり、欧州基準(国連協定規則)を反映した韓国国内の「自動車規則」が直接適用されます。韓国の現行基準では、運転者がハンドルを握り、車線変更の前に方向指示器などを直接操作することが求められており、車両側が自ら車線変更や都心ルート走行を行うFSDの作動方式は基準外となってしまいます。結果として、2026年9月末時点で韓国に登録されているテスラ車23万8,968台のうち、約77%にあたる18万3,407台の中国製モデル3・モデルYが、最新のHW4コンピュータを搭載しながらもFSDを使えないという「ねじれ現象」が生じています。

認証項目 米国製テスラ車(フリーモント生産等) ギガ上海製テスラ車(中国生産)
適用法規枠組み 米国FMVSS基準に基づく韓米FTA特例承認の対象 各国固有の型式認証・安全基準審査(国連協定規則等)
韓国でのFSD稼働状況 モデルS/モデルXおよび米国製モデル3/モデルY(HW3含む)で利用可能 登録車全体の約77%(18万3,407台)を占めるが最新HW4搭載車も利用不可
日本市場での位置づけ 過去の初期輸入車(現在は新車販売なし) 現在日本で新車販売される全モデル3/モデルYの供給元
規制上の主な課題 車両供給コスト・輸送費負担 ステアリング安全基準との不一致および個別特例審査のハードル

テスラコリアが踏み切った「技術特例」申請と承認への3つの変数

この構造的な不遇を打破するため、テスラコリアは2026年10月22日、韓国の国土交通部に対して「自動車と自動車部品の性能と基準に関する規則(自動車規則)」第114条第2項に基づく特例申請書を提出しました。同条項は、既存の基準より優秀であるか安全確保に必要と認められる新しい「装置」の設置を国土交通部長官が例外的に許容する制度であり、ギガ上海製車両にもFSDの稼働を認めるよう求めたものです。

ただし、申請が受理されたからといって即座に解禁へ進むわけではなく、正式承認までには以下の3つのハードル(変数)が立ちはだかっています。

1. 「物理的装置」向け特例条項をソフトウェアへ適用できるかの法理検討

自動車規則第114条第2項の特例は、これまで灯火装置やペダル誤操作防止装置といった「物理的なハードウェア部品」を対象に適用されてきました。一方、FSDはすでに車両へ搭載されているHW4コンピュータやカメラをOTA(無線ソフトウェアアップデート)で機能拡張する仕組みです。国土交通部も「ソフトウェアアップデートに特例を適用した事例はなく、法理検討が必要」との立場を示しています。

2. 自動車安全研究院での検証に向けた技術資料の追加提出

特例承認にあたっては、韓国交通安全公団の自動車安全研究院による技術的・安全性検討が不可欠です。しかし、テスラコリアが提出した今回の申請書には安全性審査に必要な技術資料が十分に含まれていなかったことが判明しており、今後当局とテスラの間で追加協議とデータ提出が求められることになります。

3. DCAS(UN-R171)の道路制限と中国メーカー製EVへの波及懸念

韓国では2026年7月に関連法改正案が発議され、国連の「ドライバーコントロール支援システム(DCAS:UN-R171)」国際基準を取り入れる動きも進んでいます。しかし、DCASが導入されてもハンズフリー走行が認められるのは高速道路や自動車専用道路に限定されるため、市街地(一般道)でもハンドルから手を放して走行する米国式FSDをそのまま認可することは困難です。さらに業界内では、ギガ上海製テスラに特例を認めれば、中国国内の走行実績しか持たない他の中国メーカー製EVにも同一の特例基準を適用せざるを得なくなるため、当局が慎重になっているとの見方も出ています。

日本の型式指定制度とFSD公道解禁への実質的な意味

この韓国における特例申請と法規制の議論は、日本国内におけるテスラの自動運転展開を見通す上でも極めて重要な意味を持ちます。

日本市場に導入されるテスラ車は、国土交通省の「協定規則(UN-ECE規則)」に準拠した型式指定を取得して輸入・販売されています。現在、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)において、ドライバー監視型の高度運転支援システム(DCAS:UN-R171)に関する法規改定が進められていますが、DCASの標準枠組みだけでは高速道路以外の一般道・市街地におけるFSDのフル機能をカバーしきれないという課題は、韓国や欧州とまったく同じです。

実はこうした「国連基準(DCAS)の枠組みではカバーしきれない市街地FSDを、各国の新技術特例条項によって突破する」というアプローチは、欧州でも先行して動いています。2026年4月にオランダがEU規定の新技術例外条項を根拠にFSDを初めて承認して以降、ベルギーやデンマークなど約10カ国が追随しており、同年12月にはEU加盟国投票で域内全体の許容可否が判断される予定です。

日本国内で現在新車販売されているモデル3やモデルYは100%ギガ上海製であり、米国製車両向けのFTA特例のような抜け道は最初から存在しません。だからこそ、同じ国連協定規則(UN規則)をベースとする韓国や欧州において、ギガ上海製モデルを含む車両に対して「ソフトウェアの新技術特例承認」や「安全性技術資料の審査基準」がどのように確立されるかは、日本の国土交通省がFSDの公道解禁を審査する上での直接的な先行モデルとなります。

FSDの日本導入に向けた議論は、単なるAIモデルの性能論にとどまらず、実際に日本の港湾へ陸揚げされる「ギガ上海製車両の保安基準適合」をどの法規枠組みでクリアするかという実務的な制度設計と表裏一体です。韓国での技術特例申請と追加協議、そして年末のEU投票の行方は、国内オーナーの愛車でFSDが解禁される時期を占う重要な試金石と言えます。

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