日本は世界から完全に遅れてしまっていますが、テスラに限らず電気自動車(EV)の普及が急速に進んでいます。このEVの心臓部とも言えるリチウムイオンバッテリーは、走行性能や航続距離に直結するため、その性能維持が極めて重要ですし、その劣化状況が購入意欲に大きく影響すると考えられます。しかし、長期間の使用や充電・放電の繰り返しによって、バッテリーは徐々に劣化し、性能低下や安全性の懸念が生じることも十分知られています。
今回はちょうど、この2025年3月20日でまる4年を迎えたギガファクトリー上海製のテスラモデル3のバッテリー劣化状況に関してレポートしたいと思います。
バッテリー劣化のメカニズムと要因
このリチウムイオンバッテリー、特にEVに限ることもないバッテリーの劣化は、主に化学反応や物理的な変化に起因します。具体的には、電極材料の構造変化、電解液の分解、固体電解質界面(SEI)の形成などと言われています。
- サイクル劣化:充電と放電のサイクルを繰り返すことで、電極表面に副生成物が蓄積し、内部抵抗が増加。これにより、放電可能なエネルギーが次第に減少していくと言われています。
- 高温や低温の影響:バッテリーは温度変化に敏感です。特に高温環境では、電解液の劣化や不均一な反応が促進され、劣化速度が加速します。また、低温下では内部抵抗が増加し、急速充電時にダメージが生じやすくなると言われています。
- 過充電・過放電:適正な充電管理が行われない場合、バッテリーの化学反応が暴走し、材料の劣化が進むリスクが高まります。これらの要因は、車両の走行性能や航続距離、さらには安全性にも大きな影響を及ぼすため、慎重な管理が求められます。
もはや中国BYDに追い抜かされつつありますが、テスラはまだ累計では世界で最も電気自動車を販売している会社で、今でも世界中で700万台以上が道路を走っています。それらのデータから、以下の記事のように、寒冷地のほうがバッテリー劣化が少ないこと、急速充電はバッテリー劣化にそれほど影響を与えないことが報告されています。
2種類のバッテリーケミカル
現在BEV(バッテリー・エレクトリック・ヴィークル)に搭載されている駆動用バッテリーは、大きく分けて三元系と呼ばれるNMC(ニッケル・マンガン・コバルト)バッテリーとLFP(リン酸鉄リチウム)の2種類に大別されます。
三元系NMC
前者のNMCのはその名の通り資源が偏在している希土類であるコバルトが含まれていることから、性能が高い一方でコストも高いバッテリーです。テスラの場合、モデル3でもモデルYでもロングレンジやパフォーマンスといった航続距離の長いグレード(ロングレンジ)に採用され、日本のパナソニックと韓国のLG化学からそのバッテリー供給を受けています。また、テスラは自社でも4680(直径46mm、高さ80mmの円筒形)バッテリー製造にチャレンジしていますが、今のところ大きな進捗はなくその開発は停滞している状況です。
またこのNMCバッテリーは、通常は満充電80%の充電状態を保ち、長距離を移動する場合にのみ100%充電するようなバッテリーの使い方が推奨され、そうすることでバッテリーの劣化を抑えることができるとされているバッテリーです。
リン酸鉄系LFP
一方で、LFPと呼ばれるリン酸鉄系のリチウムイオンバッテリーは、モデル3とモデルYのエントリーグレードとなるRWDに採用され、NMCに比べて単位重量あたりの電力量が小さい、つまり同じ重さのバッテリーではNMCに比較して短い距離しか走れない一方で、安全性がNMCよりも高いとされているものです。更に、このLFPの場合、三元系と違って少なくとも週に1回は100%に充電することが推奨されています。
そして今回ご紹介するモデル3SR+(スタンダードレンジ・プラス)に搭載されているのは、今や世界最大の車載バッテリーメーカーとなった中国CATL製のLFPバッテリーで、概ね2週間に1回は100%を保つような運用を4年間続けています。加えて、直近の2年間は、自宅充電は控えてスーパーチャージャーによる急速充電に頼った運用をしていますので、充電環境としては結構過酷な状況言えると思います。
それでは、今回丸々4年間経過したバッテリーの劣化状況について見ていきましょう。
バッテリー劣化状況
今回、スーパーチャージャーで満充電した際の航続距離表示とOBDに表示されているバッテリー容量を計測して表にまとめるといかのような状況です。
時期 | 満充電時の航続距離 | 満充電時のOBD表示 | 累計走行距離 |
2021年3月 | 425km | (?) | 20km |
2022年3月 | 418km | 53.4kWh | 4,700km |
2022年9月 | 411km | 52.2kWh | 7,100km |
2023年3月 | 405km | 51.6kWh | 9,200km |
2024年3月 | 396km | 50.6kWh | 13,300km |
2024年9月 | 394km | 50.5kWh | 16,300km |
2025年3月 | 393km | 50.1kWh | 19,500km |
上の表のように、昨年9月から満充電時の航続距離の減少はわずか1km、OBDに表示されるバッテリー容量は0.4kWh(約0.8%)の減少という結果です。

テスラはOTA(Over The Air)アップデートでソフトウェアを以下の記事のように頻繁に更新することで知られています。そのソフトウェアの更新にはエネルギー効率を高めるような、つまり航続距離が伸びるような更新も含まれていますので、そういう理解をすれば劣化率に少し違いがあることは理解可能です。
ただ、この航続距離の計算は、季節や空調の設定状態、タイヤ空気圧など様々な要素がシミュレーションの対象となるため「変動するもの」であることも否定はできませんので、その点ご留意ください。
つまり、バッテリー容量を基準にすると、バッテリーの劣化率は4年間で10%未満と推定されます。この水準を劣化が早いと見るか遅いと見るかはそれぞれのご判断になるかと思いますが、バッテリー式電気自動車を購入しない理由にはなりにくいというのが実態でしょう。
つまり、スマートフォンのバッテリー劣化から類推される一般に心配されているような急速なバッテリー劣化は、最近の温度管理がしっかりされた電気自動車では起こりにくいということなのだと思います。
テスラ関連の最新記事を毎日随時アップしていますので、過去のニュースはこちらを参照ください。
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