欧州連合(EU)におけるテスラの運転支援システム「FSD (Supervised)」の展開において、新たな認可国が誕生しました。クロアチアの交通当局が公道走行および商用展開を正式に承認し、オランダ、リトアニア、エストニア、デンマーク、ベルギー、スロベニア、チェコに続く欧州第8番目の承認国となりました。
EU本部のあるブリュッセルにおいて、ブロック全域を一括でカバーする型式承認の採決が2026年12月以降へと先送りされる中、加盟各国が独自にゴーサインを出す「国別免除(Bilateral Exemption)」の動きが急速に連鎖しています。なぜ中央の法規審議が足踏みする一方で個別国の解禁が進むのか、テスラが推し進める二国間交渉スキームと、EU過半数(15カ国)形成に向けたロードマップを整理します。
欧州8カ国へ到達。加速する「国別免除」の法規スキーム
テスラが欧州で展開しているFSD認可戦略の基盤は、2026年春にオランダ車両庁(RDW)が認めた法規免除枠組み(Article 39 / 国別特別型式承認)の横展開です。
国連欧州経済委員会(UNECE)で策定が進む「DCAS(ドライバー制御支援システム)」の全体合意を待つのではなく、国内法の免除規定を活用することで、法規適合の実証データを個別国単位で積み上げる手法が採られています。2026年9月だけでも、スロベニア、チェコ、そして今回のクロアチアと、中東欧諸国を中心に3カ国が相次いで認可を付与しました。
テスラは現在、アイルランド交通当局との間でも同様の承認に向けた協議を進めており、さらにイタリア当局とも対話を行っていることが判明しています。アイルランドで承認が下りれば欧州9カ国目となり、EU全27加盟国のちょうど3分の1に達することになります。
ブリュッセルの足踏みと対立軸:安全機関が懸念する「速度超過」問題
個別国の認可がハイペースで進む一方、EU全域を束ねる欧州委員会(TCMV: 自動車技術委員会)における一括採決は当初予定の10月から12月へと延期されました。その背景には、西欧・北欧加盟国の一部や交通安全機関との間で生じている意見の対立があります。
最大の対立軸となっているのが「制限速度遵守のアルゴリズム」です。欧州交通安全評議会(ETSC)やスウェーデン、フランスなどの規制当局は、テスラFSDに搭載されている「ドライバーが制限速度に対して最大+50%まで上乗せ設定できる速度オフセット機能」を問題視しています。欧州では一般安全規則(GSR)に基づき、法定速度を逸脱しないインテリジェント・スピード・アシスタント(ISA)の搭載が義務付けられており、システムの判断やドライバー設定によって法定速度を超過する挙動は認可要件に反するという主張です。
実際、ベルギーのブリュッセル市内で行われたFSDの実走テストでは、30km/h制限ゾーンの半数以上で制限速度を超過して走行したという指摘がなされており、テスラ側がファームウェア上で欧州専用の速度厳守リミッターをどう実装するかが、全体承認に向けた条件交渉の焦点となっています。
欧州向けFSD v14カスタムビルドの仕様とハードウェア境界
クロアチアやチェコなどの認可国で実際に車両へ配信されるソフトウェアは、北米仕様と異なる欧州専用のカスタムビルド「FSD v14」となります。
1. 欧州特有の交通ルールへのローカル適合
欧州の道路網に頻出する複雑な多車線ラウンドアバウト(環状交差点)、市街地の狭路における対向車との優先権判断、自転車レーンとの交錯など、北米とは異なる道路インフラと法規に合わせたニューラルネットワークのチューニングが施されています。
2. HW4(AI4)車両先行とHW3(v14 Lite)の境界線
先行して配信が開始されるのは、ミリ波レーダーを持たず高解像度カメラとAI4コンピュータを備えた「Hardware 4」搭載車両のみに限定されます。旧世代のHardware 3(HW3)搭載車両については、演算負荷を軽減した「FSD v14 Lite」の欧州向け最適化が完了するまで展開が保留される仕様となっており、ハードウェア世代間での段階的ロールアウトが採られています。
このクロアチアの合流により、テスラFSDが公式に公道展開されている市場は全世界で16市場に達し、そのうち半数の8市場を欧州が占める構造となりました。
15カ国「特定多数」形成と日本市場への波及シナリオ
EU全域での一括型式指定(全加盟国での即時解禁)を勝ち取るためには、欧州委員会(TCMV)の採決手続きにおいて「特定多数(Qualified Majority)」の賛成票を獲得する必要があります。具体的には、全27カ国のうち55%にあたる「15カ国以上の賛成」と、それらの国がEU総人口の65%以上を代表していることが条件となります。
テスラが中東欧や北欧の小規模国から個別承認を着実に積み上げている戦略は、この15カ国という過半数ラインを形成するための「外堀埋め」に他なりません。個別国での実走データによって安全性が証明され、事故率の低さが公的に立証されるほど、慎重派の西欧大国も拒否権を行使し続けることが政治的に難しくなります。
この欧州でのプロセスは、日本の国土交通省による自動運転認可のタイムラインにも直接的な影響を与えます。日本は国連WP.29の枠組みに準拠しているため、欧州で12月にDCAS適合車両としての承認が下りるか、あるいは国別免除の実績が国際基準の改定を後押しすることで、日本仕様へのFSD適合審査が前倒しで進展する論理的ルートが形成されつつあります。
参考情報
- Not a Tesla App: Tesla Wins Approval to Launch FSD (Supervised) in Croatia
人気記事
新着記事
※免責事項:この記事は主にテクノロジーの動向を紹介するものであり、投資勧誘や法律の助言などではありません。また、記事の正確性を保証するものでもありません。加えて、記事内のリンクにはアフィリエイトリンクが含まれていることがあります。また、掲載情報によって起きたいかなる直接的及び間接的損害に対しても、筆者・編集者・運営者は一切責任を負いません。更に、運営者はテスラ株式のホルダーです。



コメント