欧州連合(EU)全域におけるテスラ「FSD(監視型:Supervised)」の型式承認を巡り、欧州最大の自動車製造国であるドイツ連邦デジタル・交通省(BMDV)が公式見解を明らかにしました。欧州委員会・自動車技術委員会(TCMV)での決定的な採決が現時点で「2026年12月」に予定されていることを確認するとともに、ドイツ政府として技術に中立的かつ前向きな姿勢を維持しつつも、認可にあたって慎重に精査している具体的な「3つの安全上の懸念事項」を提示しました。
これまでオランダRDWの暫定承認を受け、ベルギー、デンマーク、スロベニア、チェコ、クロアチアなど計8カ国が個別に認可してきた「国別免除」の枠組みとは異なり、12月のTCMV投票はEU全域での承認の可否を決めるものです。フォルクスワーゲンやBMW、メルセデス・ベンツのお膝元であるドイツの姿勢は、その判断に影響し得ます。日本市場への導入時期については、現時点で公式な発表はありません。
本稿では、ドイツ当局(BMDVおよび連邦自動車交通局:KBA)とオランダ車両庁(RDW)の協議内容から浮き彫りになった3大審査論点を整理し、12月のEU全域採決に向けた論点と、日本への波及について現時点で言えることを整理します。
10月採決は追加協議へ。ドイツBMDVが確認した12月採決の枠組み
テスラのFSD(監視型)は、すでに北米で膨大な実走行データを蓄積しています。しかし、世界で最も厳格な型式認証制度を持つ欧州市場においては、規制当局による承認プロセスが最大の関門となってきました。
今回、ドイツ交通省の市民サービス部門が公式文書を通じて回答した内容により、これまで不透明だった欧州委員会の審議タイムラインの見通しが明らかになりました。
1. TCMVによる10月6日協議と12月投票へのスケジュール移行
欧州における自動車技術基準を策定する「自動車技術委員会(TCMV)」において、当初は2026年10月6日にFSD承認に関する採決が行われると期待されていました。しかしドイツ交通省によると、10月6日の会合は「加盟国間の技術的協議と論点整理」にとどめられ、EU全域での法的位置づけを決定する正式投票は2026年12月に予定されていることが確認されました。
この延期は却下を意味するものではなく、後述する安全上の論点のすり合わせのための期間と見られます。
2. オランダRDWとドイツKBAによる技術データの直接検証
欧州におけるテスラ車の型式承認を長年担当してきたのはオランダの車両庁(RDW)です。現在、ドイツ連邦自動車交通局(KBA)はオランダRDWおよびテスラ開発チームと直接の技術協議を進めており、技術データ全般を精査しています。
ドイツ交通省は「技術に対してオープンであり、安全性を重視する姿勢(technology-open and safety-oriented)」を明言しており、新技術を一律に拒絶する姿勢ではないことを示しています。
3. 「国別免除」のパッチワークから「EU全域承認」を目指す動きへ
2026年秋にかけて、オランダRDWが付与した暫定承認(EU型式承認枠組規則(EU) 2018/858第39条に基づく新技術免除)を受け、クロアチア、チェコ、スロベニアなど計8カ国が個別に認可してきました。しかし、国別免除はあくまで当該国内での走行に限定された暫定措置に過ぎず、国境を越えた瞬間にシステムが利用できなくなる「パッチワーク状態」を招いていました。
12月のTCMV投票は特定多数決で決まるとされ、EU全域での承認が可決された場合には、加盟国をまたいでFSD(監視型)を利用できる道が開かれます。ただし、可決は確定しておらず、日程もこれまで延期されています。
ドイツ当局が突きつけた「3つの懸念事項」。速度超過と都市部運用の壁
ドイツ交通省が12月採決に向けて精査中であることを明かした背景には、欧州特有の交通環境と法体系に根ざした「3つの具体的な懸念事項」が存在します。
1. 速度超過問題(System Speeding):スピードオフセット制御への懸念
規制当局が最も強く懸念しているのが、FSDが道路標識や制限速度を自動的に超過して走行する可能性です。
ドイツ交通省は、FSDが状況によって制限速度を最大50%超えて走行し得る点(スピードオフセット機能)を懸念事項に挙げています。(筆者注:欧州では新車に対する速度支援(ISA)の義務化が進んでおり、整合性が論点になる可能性があります。)
2. 過密都市部での運用制限(Urban Operation):歩行者・自転車混在路の審査
欧州の都市部は、数百年前に形成された狭小な石畳道路、複雑なロータリー(環状交差点)、トラム(路面電車)、そして大量の自転車や歩行者が混在する極めて過密な環境です。
ドイツ交通省は、FSD(監視型)が複雑な市街地走行を含む多様な交通状況に対応できるように見えるとしつつ、同水準の運転支援機能を密集した市街地で認めてよいかを検討しているとしています。
3. SAEレベル2における運転者責任の絶対性(Driver Liability)
ドイツ交通省は、FSD(監視型)がどれほど高度な自律走行を実現したとしても、国際基準上はあくまで「SAEレベル2(部分自動運転)」に分類される点を強く強調しています。
万が一の事故や交通違反が発生した場合、責任の所在は製造元であるテスラではなく、監視義務を負うドライバーに完全に帰属します。ドライバーが責任を負うことが明確である点を、ドイツ交通省は強調しています。
日本市場への波及は未確定。国連基準(WP.29)との関係
日本の自動車保安基準は、国連欧州経済委員会(UNECE)の「自動車基準調和世界フォーラム(WP.29)」で策定される国連協定規則と関係が深く、欧州の動向は参考情報になります。ただし、12月のTCMV投票はEU域内の手続きであり、日本の基準に直接連動するものではありません。
1. EUの暫定承認とUNECE DCASの位置づけ(別手続き)
現在、国連WP.29の下部組織において、先進運転支援システムの国際基準「DCAS(Driver Control Assistance Systems)」の策定作業が進められています。
12月のTCMV投票は、オランダRDWが付与した暫定承認(EU型式承認枠組規則(EU) 2018/858第39条に基づく新技術免除)をEU全域に拡大するか否かを決めるものです。国連のDCAS(UN-R171)の改正とは別の手続きであり、直接の連動は確認されていません。
2. 右側通行欧州から左側通行・日本へのローカライズ課題
日本での導入にあたっては、国土交通省による保安基準上の整理が別途必要になります。日本は国連協定規則(UN-R79、R157等)に基づく国内基準を整備してきましたが、FSD(監視型)への適用や時期は現時点で明らかになっていません。
法規上の整合性が取れた後の課題は、日本特有の交通環境へのローカライズです。右側通行の北米・大陸欧州とは異なり、日本は「左側通行」であり、交差点での対向車直進優先(右折処理)、自転車専用レーン、狭小な通学路など、ビジョンニューラルネットの学習データセットを日本の道路に合わせて最適化する必要があります。
3. 日本導入の時期について
日本導入の時期について、国土交通省やテスラから現時点で発表はありません。EU側の予定は、2026年12月にTCMVで暫定承認のEU全域拡大の可否が決まる見込みという点のみです。
日本導入の時期は現時点で公式発表がなく、まずはEUの12月採決の結果を注視する段階です。
参考情報
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