FSDにおける「最高速度設定」の廃止方針
テスラの自動運転(Full Self-Driving / FSD)ソフトウェアにおいて、ドライバーが画面やステアリングのスクロールホイールで固定の上限速度を指定する機能の復活が見送られ、今後のビルドでも採用されないことが明らかになりました。
テスラのAI開発責任者であるAshok Elluswamy氏は、FSDテスターからの問いかけに対し「最高速度の手動コントロールはアンチパターン(間違った設計パターン)である」と明言し、ソフトウェアがドライバーの暗黙の好み(Implied Preferences)を自律的に学習する仕組みへ完全に移行していることを強調しました。
本記事では、なぜテスラが手動による速度制限機能を廃止し、AIによる自動速度調整および嗜好学習へと舵を切ったのか、その技術的背景と規制上の要因を解説します。
従来の固定速度設定が直面していた壁
従来のオートパイロットや初期のFSDでは、道路標識や地図データ上の制限速度に対し、ドライバーが「制限速度+10km/h」といった固定オフセットや上限速度を設定する方式が一般的でした。しかし、この方式にはいくつかの課題が存在していました。
1. 地図データと実際の交通流との剥離
カーナビのGPS地図データに含まれる制限速度情報は、必ずしも最新かつ正確ではありません。また、北米をはじめとする実際の道路環境では、制限速度が55mph(約88km/h)の区間であっても周囲の交通流が75mph(約120km/h)で流れているケースが頻繁に発生します。
車速を固定値に制限しすぎると周囲の車流から浮いてしまい、後続車からの追突リスクや円滑な車線変更の阻害につながっていました。
2. 欧州規制当局からの懸念
手動で制限速度を大幅に超過するオフセット設定を許容する仕様は、規制当局からの厳しい懸念の対象となっていました。特にスウェーデンやフランスなどの欧州当局は、制限速度を超えた走行をシステム側で設定できる点を問題視しており、欧州でのFSD導入に向けたハードルのひとつとなっていました。
スピードプロファイルと暗黙の好みの学習
こうした課題を解決するため、テスラは単一の最高速度指定を廃止し、「Speed Profiles(スピードプロファイル)」および「ドライビング嗜好のニューラルネットワーク学習」を導入しています。
スピードプロファイルによる選択
最新のFSDでは、ドライバーは「Chill(控えめ)」「Standard(標準)」「Hurry(急ぎ)」といった大まかな運転のパーソナリティを選択します。車両は選ばれたモードと周囲の交通流、道路状況、天候を考慮し、最も適した速度を自律的に決定します。
ペダル介入履歴の自動学習
さらにテスラAIチームは、ドライバーが走行中にアクセルペダルを軽く踏み増した(オーバーライドした)挙動や、特定の道路での操作履歴をデータとして記録・学習するモデルを構築しています。
| 比較項目 | 従来の方式(上限速度手動設定) | 最新のAI制御方式(嗜好学習) |
|---|---|---|
| 速度決定の主体 | ドライバーによる数値指定 | 周囲の交通流 + AIによる状況判定 |
| 外部環境への適応 | 不正確な地図データや標識に依存 | 周囲の車両速度や車間距離に適応 |
| 規制対応 | 速度超過設定が欧州規制に抵触 | 自動制御により法規順守と円滑さを両立 |
| 操作の手間 | 道路ごとにダイヤルで速度変更 | 自然なペダル操作履歴をシステムが学習 |
FSDが遅すぎると感じてドライバーがペダルを踏み増すと、その「暗黙の嗜好」が学習され、次回以降の走行時に自然な車速選択が行われるよう最適化が進められています。
エンドツーエンドAIによる運転スタイル最適化
最高速度の手動設定を排除し、AIモデルによる車速の自動決定に集約していくアプローチは、将来的な無人自動運転(Robotaxi)の展開においても前提となる重要な設計思想です。
乗員が細かな最高速度を指定しなくても、システムが人間以上にスムーズで安全な車速を維持し、乗員の好みに合った運転スタイルを提供する方向へと進化が続けられています。
参考情報
- Not a Tesla App – Tesla Won’t Bring Back FSD Max Speed Option, Speed Selection Improvements Coming

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