テスラ(Tesla Inc.)の2025年第4四半期および通年の決算発表が、2026年1月28日(水)の市場終了後(日本時間29日(木)早朝)に迫っています。
投資家のセンチメントは複雑です。かつてのような爆発的な車両販売の伸びが影を潜める一方で、エネルギー部門の急成長や、自動運転(FSD)、人型ロボット「Optimus」といったAI分野への期待が株価を支える構造となっています。
本記事では、目前に迫った決算発表を前に、株主が現在何を懸念し、どのような「未来」をイーロン・マスクCEOに求めているのかを、最新のデータと技術動向を交えて詳細に解説します。
1. 決算の数字:自動車販売の減速とマージンの重圧
まず、現実的な数字から目を背けるわけにはいきません。テスラはもはや、単にEVを作って売るだけの会社として評価されるフェーズを過ぎつつありますが、依然として収益の柱は自動車です。
販売台数の減少とBYDの台頭
テスラが発表した(あるいはコンセンサスを集計した)データによると、2025年第4四半期の納車台数は約422,850台となり、前年同期比で約15%〜16%の減少となる見通しです。2025年通年の納車台数は約163万6,000台にとどまり、前年比8.6%減となりました。

特筆すべきは、競合である中国のBYDが2025年に226万台を納車し、テスラを抜いて世界最大のBEV(バッテリー式電気自動車)メーカーとなったことです。これにより、「成長株」としてのテスラの評価には黄信号が灯っており、多くのアナリストが「Hold(保持)」や「Sell(売り)」のレーティングを付けています。
収益性の低下
ウォール街のアナリスト予想(コンセンサス)では、第4四半期の売上高は約245億ドル、非GAAPベースのEPS(1株当たり利益)は0.44ドルと予測されています。これは前年同期比で約40%近い減益を意味します。
背景には、価格競争による自動車部門の利益率圧迫があります。営業利益率は4%〜5%台に低下すると見られており、かつての圧倒的な利益率は影を潜めています。しかし、一部の強気な投資家は、この低いEPS予想が、一時的なコスト計上(リストラクチャリング費用や訴訟費用など)による「大掃除」の結果であり、実態よりも過度に悲観的である可能性を指摘しています。
2. 救世主としての「エネルギー事業」
自動車販売が苦戦する一方で、テスラの収益構造を支える強力な柱として浮上しているのがエネルギー貯蔵部門です。

記録的な成長
2025年第4四半期、テスラは14.2 GWhという過去最高のエネルギー貯蔵設備を配備しました。通年では46.7 GWhに達し、前年比49%増という驚異的な成長を遂げています。
利益率への貢献
さらに重要なのは、エネルギー事業の収益性です。第3四半期の時点でエネルギー部門の粗利益率は30%を超えており、自動車部門の利益率を大きく上回っています。自動車のマージン低下をエネルギー事業の高収益が相殺する構造が鮮明になっており、テスラが単なる自動車メーカーから「エネルギー・AI企業」へと脱皮しつつあることを示しています。
3. 株主最大の関心事:FSDとRobotaxi
決算説明会に向けて、個人投資家向けプラットフォーム「Say」を通じて集まった質問の多くは、現在の販売台数よりも「将来のAI収益」に集中しています。
Robotaxi(Cybercab)の展開時期
最も注目されているのは、無人のロボタクシー(Robotaxi)の展開スケジュールです。現在、オースティンとベイエリアで限定的なサービスが開始されていますが、運用台数は約200台にとどまり、当初の「2025年末までの無人化」という目標は未達に終わりました。

株主からの質問では、「Robotaxiの展開や監視なしFSD(Unsupervised FSD)のボトルネックは何か?」という点が上位に挙がっています。マスク氏は以前、ボトルネックは「データ量」にあり、規制当局の承認が次のハードルになると述べています。
技術的な進展:カメラ洗浄システムの導入
Robotaxi(Cybercab)のプロトタイプに関する最新の目撃情報では、リアカメラに洗浄装置(ウォッシャー)が搭載されていることが確認されました。これは、人間が運転しない車両において、泥や雪でカメラが塞がれた際の対策として不可欠な機能です。また、サイドミラーが完全に排除されたプロトタイプもテストされており、完全自律走行に向けたハードウェアの準備が着々と進んでいることが窺えます。
FSDのサブスクリプション化
テスラはFSDの販売モデルを大きく転換しようとしています。2月14日以降、従来の買い切り型(8,000ドル)を廃止し、月額99ドルのサブスクリプションのみにする計画が報じられています。これは、一時的な売上よりも、安定した経常収益(リカーリング・レベニュー)を重視する戦略への移行を意味します。
4. 人型ロボット「Optimus」の実用化
株主の関心事のもう一つの柱は、人型ロボット「Optimus」です。 「現在、テスラの工場内で何台のOptimusが稼働し、どのような生産タスクを行っているのか?」という質問が投資家から寄せられています。

マスク氏はこれを「無限の金脈(infinite money glitch)」と表現し、将来的には自動車事業を超える価値を生むと豪語しています。しかし、大量生産のタイムラインは2026年後半へと後ろ倒しされており、今回の決算会見で具体的な進捗や工場での効率化への寄与について、どれだけ現実的なアップデートがあるかが焦点となります。
5. 長期保有者への還元:SpaceX IPO
テスラの長期株主にとって、最も感情的な関心事の一つが、イーロン・マスク氏が率いるもう一つの企業、SpaceXのIPO(新規株式公開)です。
「長期的なテスラ株主は、SpaceXがIPOする際に優先的に株式を購入できるのか?」という質問が多くの支持を集めています。マスク氏は以前「忠誠には忠誠で報いる」と発言しており、テスラ株主に対する何らかの優遇措置が期待されています。もし今回の決算会見でこれに関する肯定的な言及があれば、テスラ株を保有し続ける強力なインセンティブとなるでしょう。
6. 技術的な堀(Moat):独自チップと新インバータ
テスラの競争優位性は、目に見える車両だけでなく、その内部の技術にもあります。最近明らかになった情報からは、ハードウェアのコスト削減と性能向上に向けた執念が見て取れます。
ハイブリッド・インバータ特許
テスラは最近、SiC(シリコンカーバイド)とSi(シリコン)の両方の半導体を組み合わせた「ハイブリッド・トラクション・インバータ」の特許を申請しました。 高価なSiCチップの使用量を減らし、安価なSiチップと組み合わせることで、コストを削減しながら高い効率と耐久性を実現する技術です。これは、EVの価格競争が激化する中で、テスラがハードウェアレベルでコストリーダーシップを維持しようとする姿勢の表れです。
チップレット技術とAIアクセラレータ
また、自動運転の頭脳となるNPU(Neural Processing Unit)に関しても、テスラはFSDチップにおいて最先端のアプローチを採用しています。学術的な分析によると、テスラのFSDチップのようなアーキテクチャでは、複数の小さなチップ(チップレット)を組み合わせることで、自動運転の「認知(Perception)」ワークロードを効率的に処理できることが示されています。
具体的には、画像処理や特徴抽出を行う「バックボーン」と、車線検知や物体認識を行う「ヘッド」の処理において、データの流れ(データフロー)を最適化することで、レイテンシ(遅延)を最小限に抑えつつ、エネルギー効率を高めることが可能です。NVIDIAなどの汎用GPUに対するテスラの優位性は、こうした自動運転に特化したカスタムシリコンの設計能力にもあります。
7. 結論:過渡期の痛みに耐えられるか
2025年のテスラは、明らかに「過渡期」にあります。 自動車販売台数の減少とBYDへの首位交代は、EV市場の成熟と競争激化を象徴する出来事です。短期的な業績数値、特にEPSの低下は投資家にとって痛みを伴うものです。
しかし、株主の視線はすでにその先に向いています。 今回の決算会見で投資家が真に求めているのは、以下の3点に対する明確な回答です。
- AIの収益化: FSDとRobotaxiがいつ、どのようにして具体的なキャッシュフローを生み出すのか。
- エネルギーの拡大: 自動車の落ち込みを補うペースで成長を続けられるか。
- 次世代のビジョン: OptimusやCybercabが、単なる「コンセプト」から「製品」へと変わる確実な道筋。
株価収益率(PER)が200倍を超える現在のテスラの株価は、現在の自動車販売の実績ではなく、これらの将来の技術革新への期待によって支えられています。 1月28日の決算会見は、イーロン・マスク氏がこの「AIナラティブ(物語)」を維持し、投資家に再び夢を見させることができるかどうかの正念場となるでしょう。
もし、FSDの「教師なし」運用やRobotaxiの具体的な展開計画について説得力のある進捗が示されれば、足元の販売不振を吹き飛ばすモメンタムが生まれる可能性があります。逆に、曖昧な回答に終始すれば、ファンダメンタルズへの懸念が再燃することになるでしょう。
私たち株主は、シートベルトを締めてその時を待つ必要があります。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、金融商品のアドバイスや推奨を行うものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。本記事に含まれる将来の予測に関する記述は、情報源に基づいた現時点での見通しであり、実際の結果と異なる可能性があります。 特に、決算数値や製品スケジュール(Robotaxi、Optimusなど)は、テスラ社の公式発表や市場環境により変更される可能性があります。独自に情報の検証を行うことをお勧めします。
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