全固体バッテリーは600マイル(約1000km)走行可能なEVを実現し、バッテリー火災のリスクを減らす可能性もあります。現在、バッテリーメーカーは全固体バッテリーを完成させるために競い合っています。
電気自動車のゲームチェンジャー
ほぼ20年にわたり、全固体バッテリーは電気自動車のゲームチェンジャーとして期待されてきました。航続距離不安を解消し、充電時間を短縮し、空気や人体に有害な排気ガスを出さずにガソリン車と同等の実用性と利便性を電気自動車にもたらすという画期的な技術です。
しかし、全固体バッテリーは研究室から一歩も出られないでいるように感じられます。何が全固体バッテリーの実用化を妨げているのでしょうか?電気自動車に実際にパワーを供給するまで、あとどのくらい必要なのでしょうか?全固体バッテリーは現実のものなのでしょうか、それともこの技術は常にSFの域を出ないのでしょうか?
専門家は、全固体バッテリーの進歩は見た目ほど遅々としていないと語りました。企業はこれまで以上に商業化に近づいていますが、依然としてハードルは残っています。リチウムイオンバッテリーと同様に、その開発はゆっくりと段階的に進むと予想されています。半固体バッテリーが最初に市場に投入され、全固体バッテリーパックが大量生産されるまでの「橋渡し技術」としての役割を果たすことになります。
バッテリー新興企業ファクトリアルのCEOであるシユ・ファン氏は以下のように語りました。
「私たちは、自動車への応用に近づけるための画期的な進歩を試験的に行っている段階です。全固体バッテリーの主な課題は拡張性です」
つまり、大量生産できるかどうかということです。

仕組み
従来の リチウムイオン バッテリーでは、充電と放電のサイクルで電荷を運ぶイオンを運ぶ電解質は、通常、リチウムベースの液体化学物質です。固体バッテリーでは、これを固体電解質に置き換えます。固体電解質は、ポリマー、硫化物、酸化物から作られることが多いです。目標は同じままです。つまり、電子を正極と負極の間でやり取りして、車両にパワーを供給します。
研究により、この切り替えには重要な利点があることが示されています。固体バッテリーは、より小さなスペースにより多くのエネルギーを詰め込むことができ、充電も速く、従来の リチウムイオンバッテリーよりも安全で熱安定性にも優れています。 理論上は、これにより、EVにありがちな問題である、極端な温度による航続距離の低下や火災の危険性などを排除できるはずです。
一方、半固体バッテリーは、完全に液体または固体の電解質ではなくゲル状の電解質を使用しており、エネルギー密度と安全性が向上しています。これは、従来の全固体バッテリーとリチウムイオンバッテリーのハイブリッドソリューションです。
現在、これらのバッテリー化学の両方を実用化させるための取り組みが大々的に進められています。マサチューセッツ州を拠点とするファクトリアル社は、この分野におけるリーダー企業のひとつです。メルセデス・ベンツ、ステランティス社、ヒョンデ・モーター・グループ(報道によると、来月には独自の固体プロトタイプを発表する可能性もある)と共同開発契約を締結しています。
この技術の開発競争には、他にも複数の企業が参入しています。カリフォルニア州に拠点を置くクォンタムスケープは、フォルクスワーゲングループのバッテリー子会社であるパワー・コーポレーションと、全固体バッテリーの産業化に関する契約を締結しています。BMWグループとフォードは、コロラド州に拠点を置くソリッドパワーに数百万ドルを投資しています。また、日本ではトヨタとホンダが、社内での全固体バッテリー開発を主導しています。

昨年、ファクトリアルは全固体バッテリー「ソルスティス」を発表しました。このバッテリーは、1キログラムあたり450Whの画期的なエネルギー密度を実現したとされる硫化物ベースの電解質を使用しています。現在、EVで使用されているリチウムイオンバッテリーのほとんどは、エネルギー密度が300Wh/kgを大きく下回っています。エネルギー密度が高ければ、EVバッテリーは大型化や重量化することなくより多くのパワーを蓄えることができ、航続距離の延長につながります。
しかし、全固体バッテリーの大量生産は大きなハードルです。バッテリーヘルスとデータの新興企業リカレントの市場洞察ディレクター、リズ・ナジマン氏は以下のように言っています。
「スケジュール上の問題のひとつは、全固体バッテリーには同じ製造工場やプロセスを使用できないことです。すべてを新型にしなければならず、そのためには資金と時間が必要なのです。」
全固体バッテリーが抱える3つの課題
米国政府の国立科学財団は、全固体バッテリーの製造要件と、それがリチウムイオンバッテリーとどのように異なるかを詳細に説明しています。簡単に言えば、バッテリーの製造には主に3つのプロセス、すなわち電極の製造、セルの製造、セルの調整が必要です。この電極の製造、セルの製造、セルの調整という3つの大きな課題が全個体バッテリーには立ちはだかっているのです。
これらのプロセスと関連サプライチェーンは、リチウムイオンバッテリーの製造に最適化されています。 現在、課題となっているのは、これらのプロセスを全固体バッテリー用に再構成することです。 この移行は、インクジェットプリンターからレーザープリンターへの移行、あるいは銅線から光ファイバーケーブルへの置き換えに似ています。 インフラ全体を再設計し、再考する必要があるのです。 また、この技術はまだ新しものであるため、研究者たちは一貫した性能と信頼性を実現するために、これらのハードルを克服しようとしています。
「これらのプロセスはすべて全固体バッテリー用に変更され、固体電解質の材料特性に大きく依存する」と指摘されています。そして、早期の商業化に向けた近道は、「従来のリチウムイオンバッテリーと固体酸化物燃料電池の双方のプロセスを採用するハイブリッドアプローチである可能性が高い」と結論づけています。
ファクトリアル社の方法はまさにその通りで、リチウムイオンバッテリー製造で実証済みの技術を一部採用しながら、独自のプロセスを組み込んでいます。
昨年、同社はマサチューセッツ州メスィエンに、全米最大の全固体バッテリー製造ラインを開設したと公表しています。 生産能力200MWhのこのラインは、全米各地に建設されている数百GWhの容量を持つ巨大バッテリー工場と比較すると小規模に思えます。 しかし、ファクトリアル社のラインは依然として大きなマイルストーンです。
その結果、メルセデス・ベンツに「Bサンプル」をテスト用に送付したことで、全固体バッテリーサンプルを世界的な自動車メーカーに送付した初のバッテリー企業となりました。Bサンプルとは、バッテリーの「ほぼ」生産プロトタイプを指します。性能検証、安全性評価、EVへの統合など、より高度なテストに使用されます。
また、これらのセルを組み立てラインで欠陥なく製造することも課題です。「パイロットラインでは、85%の歩留まり率を達成できています」とファン氏は述べ、品質スタンダードを満たし、使用可能と見なされるセルの生産率について言及しました。「通常、大規模な製造ラインでは、95%以上の歩留まり率が必要です」と彼女は言います。つまり、まだ改良の余地があり、スケーラビリティも達成できていないということです。
40Ahのソルスティスセルは、ドライカソードコーティングと呼ばれる新しい製造プロセスも採用しています。これは、テスラが次世代セルを探るために探っていると報告されているプロセスでもあります。
オークリッジ国立研究所によると、従来の リチウムイオンバッテリーの電極は、高価で環境に有害であり、工場内のスペースを多く必要とするウェットスラリーを使用しています。 ドライプロセスでは、「ドライパウダーとバインダー」を混合することで、この有害なスラリーを排除し、コスト削減、エネルギー使用量の削減、バッテリー生産による環境への影響の低減を実現します。
航続距離は600マイル(約1000km)以上?
その結果は?ファクトリアル社は、エネルギー密度の高い同社の全固体バッテリーパックは600マイル以上の走行距離を実現できると主張しています。これは、米国エネルギー省によると283マイルである米国の平均的なEPA評価走行距離の2倍以上です。そしてこの航続距離は過去10年間で3倍に増加しているため、それ自体が偉業です。ファクトリアル社は、また、従来のバッテリーよりも90℃以上の高温で動作し、重量を40%削減できるとも主張しています。
しかし、ファクトリアル社の半固体バッテリーは、高性能で簡単にスケールアップできる、短期的なソリューションです。このバッテリーは、ゲル状の電解質とリチウム金属アノード、高容量カソードを使用しています。同社は、固体電解質の利点と従来の製造可能なリチウムイオンバッテリーの利点を組み合わせたものだと主張しています。
半固体バッテリーはすでに中国市場に参入しています。昨年、Nio ET7のオーナーは、150kWhの半固体バッテリーパックにより、1回の充電で554マイル(892km)の走行距離を達成しました。
そして間もなく米国にも登場します。
ステランティス社は、ファクトリアル社の半固体バッテリーを搭載したダッジ・チャージャー・デイトナのデモ用車両を来年発売すると発表しました。このバッテリーのエネルギー密度は390Wh/kgで、現在の業界スタンダードである250~300Wh/kgを大きく上回る性能を誇ります。

また、重量面でも大きな利点があります。 ファン氏は、半固体バッテリーはパックレベルで最大200~300ポンドの重量削減が可能だと付け加えました。
「車両レベルでは、半固体バッテリーは最大1,000ポンドの重量削減が可能です。バッテリーパックの重量を削減できれば、支持構造も削減できます。」
重量削減はコスト削減に直結します。1ポンド削減するごとに、バッテリーメーカーは5ドルの削減が可能だとファン氏は言います。1,000ポンドの削減が可能になれば、コスト面で大きな差別化要因となります。
リカレントのナジマン氏は以下のように主張しています。
「米国では、空力特性の良くない大型のSUVやトラックが人気です。これらの車は、物理的特性の悪さを補うために巨大なバッテリーを必要とし、重量も非常に重くなります。全固体バッテリーは、より軽量なパッケージでより大きなパワーを提供できるため、SUVやトラックのセグメントで利用される可能性があるでしょう。」
一方で、自動車メーカーは大型車向けに、バッテリーを充電するための予備のガソリン発電機を備えた長距離走行用パワートレインの開発を進めています。
ナジマン氏は、全固体バッテリーは期待に応える準備ができていると付け加えました。
「期待の高まりは、メーカーが特に慎重になる理由の一部です。全固体バッテリーの持つ可能性を考えると、失敗作を世に出したくはないでしょうしね。」
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