かつて「夢の電池」と呼ばれた全固体電池。しかし2026年の今、それはもはや夢ではなく、目前に迫った現実です。「充電に30分も待てない」「冬場にバッテリーが減るのが怖い」「発火事故が不安」――これまでのEVオーナーが抱えてきた悩みが、過去のものになろうとしています。
1. 日本の逆襲:トヨタ・出光連合が動いた日
2026年1月30日、日本のモノづくりにとって記念すべき出来事がありました。出光興産がトヨタ自動車と協力し、全固体電池の心臓部である「固体電解質」を製造する大型パイロット装置の建設をついに開始したのです。
トヨタの次世代EVに搭載へ、出光興産が全固体電池向け固体電解質の大型パイロット装置建設を開始 | レスポンス
なぜこれが重要なのか?
これまで多くのメーカーが「開発中」としてきましたが、今回の動きは「量産」を見据えた最終投資である点が決定的に異なります。
千葉県市原市に建設されるこのプラントは2027年の完工を目指しており、ここで製造された電解質を使った全固体電池搭載EVが、2027年から2028年には市場に投入される計画です。
トヨタが掲げるスペックは衝撃的です。
- 航続距離: 約1200km(現行EVの約2.4倍)
- 充電時間: 10分以下
これが実現すれば、東京から福岡まで、途中充電なしで走り切れる計算になります。ガソリン車の給油感覚で充電が完了し、長距離移動のストレスが消滅する未来が、あと1〜2年先に待っています。
Toyota partner breaks ground on all-solid-state EV battery plant | Electrek
2. 世界の開発競争:ドイツ・アメリカ・韓国の猛追
もちろん、指をくわえて見ているのは日本だけではありません。世界中で「覇権」を巡る戦いが激化しています。
メルセデス・ベンツの実証走行(1200km走破)
実は昨年(2025年)の9月、メルセデス・ベンツはすでに全固体電池を搭載した「EQS」で公道実証を行っています。その結果は驚くべきものでした。
一回の充電で1205kmを走破し、目的地に到着した時点でまだ137km分の電力が残っていたのです。
彼らが採用したのは、米国のスタートアップFactorial Energy(ファクトリアル・エナジー)の技術です。この技術の肝は、充放電に伴う電極の膨張・収縮に対し、空気圧で常に密着させる「FEST」というシステム。これにより、既存のリチウムイオン電池と同じサイズでエネルギー密度を劇的に高めることに成功しています。
メルセデス・ベンツがEQSに全固体電池を搭載して1200km以上を走破! | THE EV TIMES
QuantumScapeとフォルクスワーゲン
全固体電池のユニコーン企業として知られる米国のQuantumScape(クアンタムスケープ)も、2025年末から2026年にかけて重要な局面(Inflection Point)を迎えています。
彼らはフォルクスワーゲン(VW)のバッテリー子会社PowerCoと提携し、量産向けプロトタイプ「B1サンプル」の出荷を開始。VWグループの「ユニファイドセル」戦略の中核として、ポルシェやアウディといったプレミアムブランドへの搭載が現実味を帯びてきました。
投資家たちの視線も熱く、2025年後半から株価が再評価されるなど、市場の期待値は最高潮に達しています。
QuantumScape’s 2025 Inflection: A Bet on Solid-State’s Future | Reddit Analysis
韓国勢:サムスンSDIの野望
韓国メーカーの中で最もアグレッシブなのがサムスンSDIです。彼らは2027年の量産開始という明確なロードマップを掲げており、LGエネルギーソリューションなども含めた韓国勢全体が、年初から株価を40%近く上昇させるなど、強いモメンタムを見せています。
電気自動車の需要鈍化で疎外されていた二次電池株が、全固体電池を中心に再び注目 | MKニュース
3. なぜ「全固体」なのか? 技術的な凄み
ここで少し技術的な話に触れておきましょう。なぜ世界中の企業が巨額の投資をしてまで、液体から固体へ移行しようとしているのでしょうか?
全固体電池のメリット完全解説:リチウムイオン電池と性能差を比較 | MONOTY
① 圧倒的な安全性(燃えない)
従来のリチウムイオン電池は、可燃性の液体電解質を使っているため、事故時の発火リスクがゼロではありませんでした。全固体電池は、その名の通り中身が「固体」です。液漏れもしなければ、燃えにくい。この安心感は、普及への最大の武器となります。
② 充電スピードの革命
液体電解質の場合、急速充電を行うと発熱し、劣化が進むという弱点がありました。しかし、固体電解質は熱に強く、イオンの移動もスムーズです。これにより、「10分充電」というガソリン給油並みの利便性が実現します。
③ 過酷な環境でも劣化しない
興味深い研究結果があります。全固体電池の製造プロセスにおいて、大気中の水分(プロトン)が電極に入り込み、性能を劣化させることが課題でした。しかし、東京工業大学などの研究により、製造後に加熱処理(アニール)を行うことで、この劣化を劇的に回復できることが判明しています。
こうした地道な基礎研究の積み重ねが、今の量産化を支えているのです。
4. クルマだけじゃない! 真の需要は「ロボット」にあり
ここ最近のトレンドとして見逃せないのが、ヒューマノイドロボット(人型ロボット)への応用です。
テスラの「Optimus」や現代自動車傘下のボストン・ダイナミクスなど、AIを搭載した「フィジカルAI」ロボットが急速に進化しています。しかし、人間と同じような環境で働くロボットにとって、重くて場所を取る従来のリチウムイオン電池は足かせとなっていました。
- スペースがない: 人型の手足や胴体にバッテリーを詰め込む必要がある。
- 安全性が必須: 人間のそばで働くため、発火は絶対に許されない。
- 稼働時間: 8時間労働に耐えるスタミナが必要。
この全ての条件を満たすのが、全固体電池です。
証券アナリストたちの間では、「全固体電池市場の初期需要を牽引するのは、実はEVよりもロボットかもしれない」という見方さえ出ています。EV市場が一時の停滞(キャズム)を迎えている間に、ロボット産業が新たな起爆剤となっているのです。
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5. 私たちの生活はどう変わる?
2026年1月の今、私たちは「バッテリーの概念」が変わる瞬間に立ち会っています。
スマートフォンが1日持たないストレス、EVでの遠出に対する不安、ロボットが家事を手伝ってくれる未来への期待。これら全てをつなぐ鍵が全固体電池です。
今後のロードマップ
- 2026年〜2027年: 各社のパイロットラインが稼働。一部の高級車や特殊用途(ロボット等)で先行導入。
- 2027年〜2028年: トヨタ、日産、サムスンなどが量産車を市場投入。
- 2030年以降: 製造コストが下がり、普及価格帯のEVや家庭用蓄電池にも搭載開始。
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まだ「夢」だと思っていましたか?
いいえ、トヨタの工場の鍬入れ(くわいれ)が始まった昨日、その夢は現実のプロジェクトへと変わりました。2027年、街中を走るクルマの中身は、今とは全く別物になっているかもしれません。
これからの数年、バッテリー技術の進化から目が離せません。
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